◆受験の動機から
司会 難関の司法書士試験の合格,おめでとうございます。平成22年度合格者の小林正俊さんと森口正臣さんのお二人と,東京法経学院で司法書士の受験指導をしている専任講師の吉田徹也先生に出席していただいております。
簡単な自己紹介を兼ねて司法書士試験の受験の動機を小林さんからお話しください。
小林 小林正俊です。私は2年半ほど司法書士試験の勉強をしてきまして,「お試し受験」を入れると3回目で司法書士試験に合格しました。
志望の動機は,もともとやっていた,音楽だけでは食べていけなかったので,何か主になるものが欲しいと一念発起して資格の取得を目指しました。音楽を通じて知り合った司法書士の先生に「小林君,やってみたら」と言われたのがきっかけでした。言われてから半年くらいはそのままにしていたんですが,友人などのすすめもあってやってみることにしたんです。資格が獲れてよかったです。
森口 森口正臣と申します。27歳です。受験の動機は,生きていく上でやはり法律というのは必要なものなので,もともと興味がありました。
それで,手始めに宅建(宅地建物取引主任者)を獲ろうと思って勉強を始めました。それで宅建の資格を獲りまして,じゃあ次は司法書士だということで勉強を始めたのが受験のきっかけ
です。
司会 受験勉強の初めの頃どんなふうに取り組みましたか?
小林 受講にいたる前段階としては,先ほどお話しした司法書士の先生の「ちょっとやってみたら」という話が2007年9月くらいにあったんです。そこからしばらくは放置していて,年明けくらいにネットでいろいろな司法書士の予備校のサイトを見て資料を請求していたんですけれど,いまいちピンと来ませんでした。私は東京法経学院の名前は大手として司法書士の先生から聞いて知っていました。その先生から,東京法経学院の書籍はいいよという話を聞いていて,私もその本を持っていますというような話をしていました。
そんなとき,私が親しくしている友人がたまたま東京法経学院のサイトをヒットして,私も見てみたら,先生が縦縞の白いスーツで,こう指差しているわけです(笑)。声楽をやっている私にとってはそのアピールが非常に斬新というか,むしろ共感を覚えたわけです。それでこの人なら信頼できるんじゃないかということで東京法経学院を選びました。それに,金銭的な問題もありました。ある予備校では当時1年5か月間で90数万円で,教材が別でした。ところが東京法経学院では早割りのような15%割引だったか30%割引の教材込みで35万円くらいでした。交通費とかを考えていったら,その値段の差というのも大きかったですね。現実的に通えるのはここしかないということで決めました。
小林 初めのころ,先ほど音楽をやっていたという話をしましたが,2008年2月28日にリサイタルをやることを決めていました。覚えやすい日だったのでいまでも覚えています。東京法経学院の第1回の講義が前日の2月27日だったんです。リサイタルの前日に第1回が始まってしまうということで,かなりドキドキしながら講義を受けて,翌日のリサイタルに臨んだ感じでした。法律はまったくのド素人でした。
森口 自分は宅建の勉強をその前にしていたので,多少の知識はありましたから,わりとスムーズに勉強に入れましたね。もちろん新しい単語とか,わからないものもありましたけれども。東京法経学院を選んだ理由は交通の便ですね。電車1本で行けるっていうのと,宅建の勉強のときに秋葉原に通っていたので,その延長で東京法経学院に通えるという位置的なことが大きかったですね。
司会 吉田先生,受験勉強の初めの頃についてはいろいろな方がいらっしゃると思いますが。
吉田 そうですね。私が司法書士の勉強を始めたころのことを思い出しました。最初のころは私もお二人と同じようにまったくの素人で何もわからない状態から始めて,司法書士の試験というものを目指して不安でした。その中でどのような方法がいいのかと考えて,結果的に私も東京法経学院を選んで,講座を受けて受かったんですけれども。でも最初は不安ですよね。本当にその予備校で受かるんだろうか。受からなかったらどうするんだろうか,と思いますよね。
そんな中で勉強していました。お二人の話を聞いていて非常に懐かしく思いますね。いまは合格したからお二人とも「よかった」と言えるでしょうけれども,もしこれがだめだったらと思うと,そんな不安の中から一歩を踏み出すというのはやっぱりなかなか難しいなと思いますね。
司会 受験勉強を始めたては,なかなかスムーズに行かないと思いますがいかがでしたか。
小林 東京法経学院はクラスがそんなに硬い雰囲気ではなかったですし,休憩中に生徒同士で話をしている人も多くいました。ただ,僕は逆にそうならないようにしようとしばらくの間は思っていました。初めは,クラスの人と名前を交換することはしていませんでした。逆に,そういうことはやめようと思っていたんです。というのは,僕はしゃべっちゃうタイプなので,皆さんの邪魔になってもいけないと思っていたんです。そんなときに,森口正臣さんとだけ話せました。ちょうど会社法の勉強が進んで,持分会社のあたりとか,合同会社とか資本金の減少に関することとか証明書をつけるつけないとかいうのを森口さんと授業の合間とか前とかに廊下でちょっと話をしたり,供託法なども,何だ供託法はというような話から権利供託とは何なんだというようなことまで話をすることができたのでよかったと思っています。もちろん吉田先生の授業ではいつも質問をしに行っていました。「さっきこういうふうにおっしゃっていましたけれども,こうじゃないんですか」と言うような,へんな生徒だったと思います。
◆質問は何でもいい
司会 先生に質問をするのは非常に有効なんですか。
小林 僕のルールとしては,授業中に先生がおっしゃったことについては触れないようにしていました。たとえば先生が説明してくださったことに関しては,よく分らなかったからといってすぐに質問したりしないというルールを決めていたんです。必ず自分の頭の中で一旦まとめてから質問に行くようにしていました。
森口 講義の初めの頃は新しい単語だらけで,やはりスムーズに入ってきませんでしたね。最初は読めない漢字もありましたので,辞書を片手にやっていました。司法書士の試験科目についてはほとんど勉強したことがありませんでしたから,まったくと言っていいほど読めなかったですね。ひらがなはぎりぎりわかるんですけど(笑)。
吉田 それは言い過ぎでしょう(笑)。
森口 でもそんな感じでしたね。漢字を読むことが大変だったのかなと思います。
司会 それはたいへんな苦労でしたね(笑)。
森口 あとは,やはり一人で勉強しますので,仲間もいませんし,孤独感がありました。勉強の内容も難しいんですけれども,孤独との戦いというのが自分の中では一番きつかったですね。
それを和らげてくださったのが小林正俊さんですね。だから,僕が合格できたのは小林さんのおかげだと思っています(笑)。
小林 ありがとうございます。僕も森口さんのおかげだと思っています(笑)。
吉田 小林さんがおっしゃっていましたけれども,やはり質問するって非常に大事なんですよね。どんなに自分の頭で考えても,わからないことはわからないですからね。一番手っ取り早いのはわかる人に聞いちゃうことです。それが講師に質問するという方法で,私も受験生のときは授業の始まる30分くらい前から講師室の前で張っていました。また講義が終わったら即質問するために講義を聴いているときもちょっとわかんないなというときは付箋を貼るわけです。
忘れないようにそのことだけを考えていると講義の中身が頭に入ってこなくなってしまうので。
おそらく,講師の先生からすると「うっとうしいな」と思われるくらい質問していました。東京法経学院は一クラスの人数が少ないですから,講師の先生に質問しやすいですし,それが合格につながりやすいのかなという気がします。試験の勉強は,受身だけではできないですからね。
受身の姿勢で,単なる知識を頭に入れるだけでなく,生徒さんにはどんどん質問していただきたいと思います。
司会 質問といってもある程度勉強した方の質問と,いま森口さんから出たように基本的なことがわからないというようなことがあると思います。講師の方には基本的なことがわからないという質問でもしてよろしいんでしょうか。
吉田 質問は何でもいいですね。ただ,一番難しいのは根本的な疑問ですね。たとえば「何で会社法ってあるんですか」という(笑)。「ここがわかりません」と言われれば,「ここはこうだから」と答えられるんですけど,根本的な質問は一言では説明できないので難しいです。しかし逆にそこが講師の腕の見せ所なのかなと思います。イメージを膨らませてあげられるような説明を心掛けていますね。法律の勉強は一見無味乾燥だからこそ逆にイメージを持つということが重要です。
◆初めのうちは講義を鵜呑みにする
司会 いまのお話にもつながりますが,法学部も出ていない,法律もまったく知らない,先ほど漢字も読めないとおっしゃっていましたけれども(笑),そういった方たちが勉強を始めていくときにスムーズに用語を突破していくためのアドバイスをお願いします。
吉田 先ほど森口さんもおっしゃっていましたが,辞書を引くということですね。私も最初はわからないことばかりでした。たとえば「概括的に」という言葉の「概括」っていったい何なんだというレベルでしたから。だから,講義を受ける前にテキストを読むとわからない言葉がいっぱい出てくるわけですね。電子辞書を片手にわからない言葉を調べた記憶があります。最初は大変でしたがそういうことを2か月くらい続けることで,それほど苦にならなくなってきました。だから,ああだこうだと考えるよりも,わからなかったら調べる。自分で調べてわからなかったら講師に聞いて,どんどんわからないことをつぶしていくと,半年くらいで法律の言葉が身になじんでくるはずです。特に初学者の方にとって一番大切なことだと思いますね。
司会 勉強を始めて合格までに何年かかかり,勉強の仕方が最初の頃と変わってきたと思うんですが,小林さん,何か自分なりに気づいて勉強法が変わっていった流れみたいなことがあれば教えてください。
小林 先生が「とにかく講義を聴いて,復習して,過去問をやりなさい」とおっしゃっていて,そのために役立つ書籍をリストにしてくれました。最初はとにかくそういうことを鵜呑みにすることですね。いくら初学者の人でも,1,2か月すると自分の勉強方法ができてくるから大丈夫ですよと先生がおっしゃっていましたが,まさにそのとおりでしたね。自分の勉強方法は,やるべきことをやるべきときに全てやっておくというものです。つまり,大変だからといって後回しにしないということです。これ大事なポイントだと思います。どんどん科目が移り変わっていきますので,油断しているともうそこに戻れないんですね。もう戻れないものを落とし
てしまっている人は厳しいと思います。わたしはとにかく目の前にあるものを全部拾っていこうという意識でいました。最初は憲法から入りましたが,判例などは全然わからないわけです,何をやっているのか。刑法も先生の「よって!」とかしか頭に残らないわけです(笑)。
だけど必死についていきました。1年経って,東京法経学院ではもう1回いい感じで先生の憲法と刑法の授業を翌年度の人たちと一緒に受けられたんです。そうすると,さすがに読めるようになっていました。だから,やっぱりできないことはあるんですが,とりあえずやる。僕はイタリアに行っていたことがあるんです。さき
ほどお二人がわからない言葉を辞書で調べているとおっしゃったんですが,イタリア人と会話していると,調べる暇がないですよね。そのときは,わからないものはわからないなりに適当に相槌を打っておくというような経験をしていたので,法律用語もわからないのが前提でしたが,でもとにかく全部聴こうと思ってやってい
ました。最大の受身になるというか。僕は音楽をやっていたので,「聴く」っていうことの大切さを誰よりもわかっているつもりなので,とにかく聴く,「聴き流す」のではなく「聴き取る」ということをやっていました。勉強方法の変化といえば,1年経っていろんなことがわかってくることとつながっていると思うんです。
◆ネガティブなことは考えない
森口 勉強を始めた頃は,働きながら,仕事をしながらやっていたんですけれども,「無理だな」と思い,思い切って仕事を辞めました。勉強一本に絞ったのが功を奏したのかなと思います。
司会 でもかなりプレッシャーになりませんか。
森口 もちろんプレッシャーはあります。一種の賭けですね。そこで,考えないようにしました。落ちたらどうしようというネガティブなことをなるべく考えずに,ポジティブな思考を持ち続けたから,やり通せたんだと思います。
【小林正俊さん】
◆やって下さいと言われた事はやる
吉田 特に初めて学習される方は自分の学習方法が固まっていませんから,あれがいいのかな,これがいいのかなということを考えたりしてしまいますが,あまり考えても仕方がないという部分もあります。やり方にはこれが唯一の正解だというものはありません。方向性はありますが,人それぞれ若干違いがあります。
段々と自分にあったやり方がわかってくるものです。私もそのためのアドバイスをしていますが,それは自分の経験則に基づいているものです。一つ言えることは,「こうやりなさい」とアドバイスされたら,先ほど小林さんがおっしゃったように,まず鵜呑みにしてやってほしいですね。たとえば,「過去問をやりなさい」とか「テキストを読み込みなさい」とかアドバイスしたときに,「本当にテキストを読んだらわかるようになるのかな」とか「過去問を解いたらわかるようになるのかな」なんてことを考えていても結局わかるようにはならないんです。
やりなさいと言われたらやることが必要です。
そのときにやっておかなければいけないことをやりなさいと言っているわけですから。過去問であれば講義が終わってからその講義の範囲の過去問を次の講義までの間にやるということがどれだけ大変かということは私も経験則でわかっています。でもそれをやっておかないと,直前期に入ったときに非常に辛い思いをすること
になります。正直に言えば,私自身も,半分くらいそうした辛い思いをしてきましたから。だからこそ,みなさんにはそうした辛い思いをしてほしくない,という親心で言うんですが,かなりの方が残念ながら直前期になってはじめて,「ああそういえば先生がそんなことを言っていたな」ということを思い出すのかなという気がします。だから,やってくださいって言うことは本当にやってほしいですね。やってみてどうなるのかという不安な気持ちもわかるんですけれども,まずやってみないことには前に進むことができませんから。そこは生徒のみなさんにお願いしたいですね。
やりなさいと言われたらやることが必要です。
そのときにやっておかなければいけないことをやりなさいと言っているわけですから。過去問であれば講義が終わってからその講義の範囲の過去問を次の講義までの間にやるということがどれだけ大変かということは私も経験則でわかっています。でもそれをやっておかないと,直前期に入ったときに非常に辛い思いをすること
になります。正直に言えば,私自身も,半分くらいそうした辛い思いをしてきましたから。だからこそ,みなさんにはそうした辛い思いをしてほしくない,という親心で言うんですが,かなりの方が残念ながら直前期になってはじめて,「ああそういえば先生がそんなことを言っていたな」ということを思い出すのかなという気がします。だから,やってくださいって言うことは本当にやってほしいですね。やってみてどうなるのかという不安な気持ちもわかるんですけれども,まずやってみないことには前に進むことができませんから。そこは生徒のみなさんにお願いしたいですね。
◆午前の部科目別学習法
司会 科目別の学習ポイントに入っていきたいと思います。小林さん,まず午前の部から,自分なりの学習方法を教えてください。
小林 午前の部は,結局最後まで苦手意識が抜けなかったので一番怖かったですね。いま新司法試験の不合格者がどんどん司法書士試験に流れ込んできているので,これからどんどん難しくなってくるんじゃないかと思うんですけど,私はとにかく午前の部は恐怖でした。私は民法を苦手にしていたんですけれども,本番では確か20問正解だったと思います。民法は結構基本的なことが問われているので,頑張れば何とかなるのでしょうが,それでも午前の部は恐ろしかったですね。範囲が広いので。
民法はとにかく用語をすべて理解することが絶対に大事ですが,いらないところは深追いしない。必要なところはもちろんすべて暗記するようにしました。ちょっと複雑な論点のところは書き出して図にしたりしました。たとえば,抵当権に基づく物権的請求権の行使の論点がそうでした。
こういう一見複雑なところは,知識として一生懸命やる必要があると思うんです。もう僕なんか忘れてしまっているくらいですけれど。そういうちょっと難しいところはやったほうがいいと思いますが,あとは基本的なものが散らばっているだけだと思います。ですから民法は基本的な事項を徹底的に記憶してしまうのがいい
と思います。
憲法は,コンプリート憲法を自分のノートに1回全部まとめました。論点をまとめるかたちで要点を全部書き出しました。それを自分なりにすべて図にして,自分用のテキストを作り,憲法はそれだけを読むようにしていました。憲法はこれからどんどん難しくなってしまうと思いますけれども,とりあえずテキストに書いてあることをすべて理解したほうがいいと思います。それから,刑法はとにかく出題されるところが決まっているので,変なところが出題されたら運が悪いと思うしかないですね。今年は簡単だったので大丈夫でした。刑法などは知識で対応できる科目だと思いますので,とにかく一生懸命覚えてしまうしかないのかなと思います。
人を罰するために必要なものが書いてあるだけなので,自分がもしこういうことをしたらこういうふうになるんだなと思いながら各論も全部とにかく覚えればいいと思います。ぼくはそういう気持ちでした。これを盗んだら窃盗で懲役3年以上とか思いながらやっていました。
会社法も『最強の会社法』をまさに「最強に」使いこなしましたね。最強の会社法は何回読んだかわからないですね。たぶん20回くらいは全部書き出しました。
もう半端じゃないですよ。「吸収分割」などの「組織再編」については,一度講師に見せたこともあるんですが,隙間がないくらいに全部書き込んでいました。たとえば公開会社と非公開会社における手続の違いとか,そういうものを全部書き出しました。特別決議の309条2項の要件などはすらっと全部言えるくらいにやっておかないと会社法は無理じゃないかなと思います。今年のような表見代表取締役の責任といった単純な条文知識では対応できない問題が出された場合,新司法試験を勉強していた人たちに有利になってしまうと思いますので,知識は極力100%仕入れておいたほうがいいと思います。『最強の会社法』を覚えられるまで,本当に20回くらい書き出しながら読んでみてください。
司会 わかりました。では,森口さん,午前の部の学習方法を具体的に教えてください。
森口 とにかく,科目に関係なしに繰り返し教科書を読む,繰り返し問題集を解くということだけですね。この科目は特に工夫して勉強をやったということはありませんでした。とにかく「繰り返す」ことですね。小林さんもいま言われたように繰り返し書く,繰り返し読む,という同じことの繰り返しをずっと続けていきまし
た。
過去問は,最初は解くのではなく,読むようにしていました。最初はわからないので,とにかく読み込んでいきました。それで,わかってきたなと思ったときに,初めて過去問を解いてみましたね。疑問点は基本書に返るようにしていました。
◆見た瞬間から浮かぶまで
司会 吉田先生,午前の部の学習方法についてアドバイスをお願いいたします。
吉田 民法と会社法に関しては絶対に落とせない科目です。憲法と刑法に関してはそのときの運にもよるかなという気もします。たとえば憲法・刑法であれば3問ずつ6問出たとして,運が良ければ6問全部正解することもできますが,運が悪ければ3問しか当たらないとか,2問しか解けないというケースもありえます。しかし,3問しか正解できなくても,それがちゃんと勉強している人であれば,周りは1問しか取れない,ひょっとしたら全滅なんていうことも十分ありえます。それなので,大事なことは,まず基本テキストをしっかり読みこんでいく,そして過去問をしっかりやるということですね。特に民法と会社法に関しては,先ほど小林さんがおっしゃったように『最強の会社法』などのまとめ本的なものを使って,見た瞬間にパッと頭の中に浮かぶくらいまでしておかなければだめですね。それから,民法に関しては判例をしっかり押さえることと基本的な知識をしっかり押さえていくことが大事です。民法の論点はいろいろあって,たとえば,誰も知らないような論点というのは,面白いんですけれども,それが本試験に出る可能性は非常に少ないわけです。
ですから,そういったことをやっても意味がないとは言いませんが,それをやるよりはまず基本的なところをしっかりやっていくことが大事です。当然,その中に過去問も含まれていますし,基本テキストを読むことも含まれているわけです。そして,刑法に関してもいろいろ楽しい論点があるんですね。だからこそ,憲法・刑
法で脇道に逸れちゃって戻ってこられなくなっちゃう人もたまにいます。けれども,憲法・刑法に関しては基本テキストをしっかり読みこんで,見た瞬間にすべてが思い浮かぶというレベルまでいって,その上で余力があれば,基本テキストに書いていないようなことをやるべきだと思います。午前の部の科目については,そう
いった基本的なことをしないで,「これも知っておかなければいけない」と考えて新作問題集に安易に手を出すのはおすすめできません。
◆午後の部の学習法1
司会 午後の部に入ります。不動産登記法,商業登記法などの勉強方法を小林さんからお願いいたします。
小林 はい,不動産登記法に関しては,先例をまとめている本が東京法経学院から出ていまして,それをひたすら読みました。とっつきにくい部分もありましたが,かなり活用しました。
たまに○×が間違っているときがあるので気をつけてほしいんですけど。そういうのも気付けることが大事だと思うんですね。気付けるか気付けないか,わからなかったら先生に聴きに行けばいいことなので。そこは先ほどの話とは違って,鵜呑みにしてはダメなのです。不動産登記法の基礎は,東京法経学院のシステムノートを使って,ひな型を丸々全部書きました。システムノートに載っているひな形を丸々写していくと,それだけで2週間くらいかかりますが,それを何回も繰り返しました。それがあったので,不動産登記法が理解できたんだとおもいます。不動産登記法には特別な学習方法はあまりなくて,ひな型と先例を覚えて,あとは答練を受けていれば点が取れると思います。
商業登記法は,択一式だけ又は記述式だけという形で勉強する人はあまり多くないと思います。商業登記法は記述式とは切り離せないんですが,それも東京法経学院で出している問題集や過去問を手当たり次第に解いて,わからないところはテキストに戻るというようにしていました。択一式も記述式も一体で学習しました。
それから,後見人や未成年の登記も,やっておかなければいけないんですが,それほど出題されないところだと思うので,そんなに力を入れて時間をかけないように,1,2回テキストを読んで,ひな型を押さえておくことにしました。
民事訴訟法と民事執行法と民事保全法の三つが何なのか,その違いが初めはわかりませんでした。授業はあっという間に終わってしまうわけです。それなので,民事訴訟法と民事執行法と民事保全法の三つが何なのか,余裕のある方はその違いがわかってから勉強を始めるといいと思います。民事の訴訟に関する法律と,民事
の執行に関する法律と民事の権利を保全するための法律が定められているんです。けれどもそれがわかりませんでしたね。だからまずその三つを分けられるようになることですね。あとは記憶です。
僕は先生の作ってくれたノートに,条文を読んでひたすら書き込んでいきました。そういう地道な努力が必要です。それから,民事訴訟法に関しては体系を簡単に解説した書籍が出ているので,受験が終わって来年に向けてという時期に読んでみるといいと思います。
小林 記述式対策は吉田先生も受験生時代に作られたという「記述式論点のまとめノート」を作りなさいと言われていたので,とにかく知らない論点に出会う度に書き込みました。代表取締役のページ,監査役のページというように分けて,何かあった時はそこに書き込んですべて一冊のノートにまとめていました。前のほうから商業登記法で後ろのほうから不動産登記法という形になっていて,このノートが埋まる前にどうか合格しますようにと思いながら使っていました。とにかくひたすらまとめて,答練で見た論点も必ず役員ごとに分割して書いて,いつでも疑問に思ったときにノートに戻れば全部書いてあるというくらいになっていました。不動産登記法は,根抵当権とか抵当権とか量が多すぎて,分けてまとめることがあまりできないので,気付いたところは両方比較できるように自分でまとめていましたね。
その頃は,甲野太郎や乙野二郎といった申請人の名前から登録免許税額まで全て記憶していて,すべての申請書を諳そらんじることができました。2年目は別の予備校の講座も受講しに行ったんです。書式のスタイルには予備校によって傾向が異なりますので,他の予備校で自分の書いた答案を添削してもらって「玉砕」するような経験をしたこともよかったと思います。他の予備校で0点を取ってくることが記述式上達の近道なんじゃないかなと思います。
司会 それでは森口さん,午後の部の試験について記述式も含めた科目別の学習方法についてお話しください。
森口 あまり参考にならないと思いますが,択一式は午前と同じように,とにかく繰り返し,繰り返しだと思いますね。記述式に関しては東京法経学院でやっている記述式レベルアップという講座があるんですけれども,それに申し込んで勉強していました。記述式についてはとにかく書くこと,書く作業の繰り返しですね。具体的には1日に不動産登記1問,商業登記1問というようなかたちです。ほぼ毎日,5年間続けました。
司会 なるほど。すごく膨大な時間ですよね。そうすると,まだほとんど頭に入っていますか。
森口 今はもうほとんど抜けてます。受けていた当時は頭に入っていたと思いたいですね。
◆午後の部の学習法2
司会 ほとんどの論点を勉強されたでしょうから,本試験問題を見ても「外れた」というようなことはなく,勉強の蓄積の中で対応できるという感じがしましたか。
森口 はい,今年,初めてそういう感じがしましたね。問題を見た瞬間にいけそうな感じがしました,直感で。不動産登記法と商業登記法は,その前提として民法と会社法の知識が必要ですので,必ず民法と会社法の教科書を並べて,行ったり来たりしながらやっていました。
それが,逆に民法や会社法の復習にもなりました。その行ったり来たりがとても役に立ちました。会社法の択一式と商業登記法の択一式と記述式とを連動して勉強するといいかもしれませんね。僕はそういうふうにやっていました。民事訴訟法と民事執行法,民事保全法に関しては,嫌いな科目だったので,できれば避けたい
と思っていましたね。特に工夫することなく,教科書に書いてあることをもう頭に詰め込もうというそれだけでやっていました。
小林 それしかないよね。
森口 繰り返しやる,繰返し読む,それしかないですね。
吉田 択一式からですが,不動産登記法と商業登記法の二つに関しては,午前の部でいうところの民法と会社法のように絶対落とせないものです。でも,結構多くの受験生の方が思い違いをしているところがあります。たとえば,先ほど小林さんも森口さんも記述式の学習法としてはまずひな型を覚えるということをおっしゃっていましたね。そして,だいたい不動産登記法にしても商業登記法にしても,ひな型をしっかり覚えておくと択一式はある程度解けるようになってくるんですね。択一式は記述式で問われていることを形を変えて聴いているだけですから,ひな型がわかっていればある程度解けるんです。ただし,ここが大事なところで,ある程度解けるといっても,それだけでは合格最低点に届かないんですね。確かにある程度は解けます。割合で言ったら6割か7割くらいは解けちゃうんですけれども,そこをさらに8割9割に持っていくということが難しいのです。
【吉田徹也先生】
ひな型を覚えると,「自分は不動産登記法,商業登記法の択一式の力がついている」と感じるでしょう。たしかに択一式の力はついているんですけれども,それだけでは足りないんだということです。択一式の力をつけるためには,しっかりと基本書を読み込んでいくことが必要不可欠です。記述式をやっていると択一式が面白くなくなります。ついつい記述式ばかりやってしまう人がいるんですね。私も一時期,記述式ばっかりやっていて,択一式をまったくやらないということがあって,それで痛い目にあったことがあるんです。そういうことをやっていると,記述式は順調に点数が上がっていくんですが,択一式はそのうち上がらなくなります。
結果的には合計点の勝負ですから,やはり択一式の点数を上げるためには基本書を読み込んでいくという辛い作業をやらなければならないんです。
先ほどから,「繰り返し,繰り返し」という言葉が出てきていますが,繰り返しというのは口で言うほど簡単ではないですよね。途中で嫌になっちゃいませんか。ああ,なんかつまんないなというような。先ほど全部頭に入っていたというお話がありましたが,そうすると過去問を見た瞬間に,これはアとイの間違いとか,正解は1と覚えてしまっていると思うんですよね。
もちろん,合格するには当然だと思います。ただ,その状態のときに,問題を暗記で解かないで,いちいち何でそうなるのかを筋道立てて考えていくのは非常につまらないことなんです。
だって,もう知っていることですから。新しいことやりたい,面白いことやりたいということで新作問題集をやる。これはやっちゃダメとは言いませんけれども,やるんであれば,まずは過去問とか基本書をしっかり徹底して完璧にした上での話なんですよね。とくに不動産登記法と商業登記法はそう思います。そして,マイナ
ー科目といわれる民事訴訟法と民事執行法,民事保全法,供託法,司法書士法に関しては,確かにつまらないというか難しいというか,イメージが湧かないわけですよね。ですから,先ほどおっしゃっていましたけれども,簡単な基本書みたいなものを本屋などで探して読むのも一つの方法かと思います。そうすることで,イメ
ージが湧きますからね。それから,記述式に関しては,それこそひな型に関しては,ページを見た瞬間に頭の中に思い浮かぶというレベルまで行って初めて合格最低点に手が届くレベルです。ですから,記述式のひな型がわからないということでは,非常に厳しい言い方になりますけれども,合格にはまだまだほど遠いといえま
す。司法書士試験における記述式というのは,それだけ重要なわけで,毎日1問ずつ解くくらいやらなければならないほど厳しいものです。
◆学習の方法論は自分で確立する
司会 予備校に入って,スムーズに1回で受かれば一番いいんですけれども,勉強しても落ちることがあります。そうすると,もちろん自分の実力がなかったとも思うのでしょうが,たとえば教材が悪いとか受験指導機関がいけなかったんじゃないかという気持ちになりがちです。落ちた後の不安と教材への不安ですね。この教材で大丈夫かという不安が起きたりしがちだと思うんですけれども,落ちたときにどう考えていったらいいかというところをお願いします。
小林 教材が悪いということはないと思いますね。東京法経学院で出している「コンプリート」シリーズは結構いい内容だと思います。過去問について僕は他の予備校のを使いましたが,そして,いざ本試験を受けてみると,明確ではないものの,どこまでやれば合格できるという目安が見えてきました。そして大事なことはそれに対してあと何が足りないのかというのを自分で見つけることです。先ほど鵜呑みにすると言ったのは学習の方法論についてであって,予備校はあくまで参考ですよね。この予備校に行ってこれだけの講座を受けたから受かるというものではないですよね。実際には,学習の方法論を自分で確立しなければ受からないと思いますね。
司会 予備校をいくつか回られるというか,たとえば答練だけ違う予備校のものを受けるとかいろいろなタイプの方がいらっしゃると思いますが,小林さんはいかがでしたか。
小林 とりあえず今年は東京法経学院でだめだったから別の予備校に行こうとか,そこもだめだったら違う予備校に行こうとかというのはダメですね。明確な目標を持って,この先生の声が好きだからとか,見た目が好きだからとか,値段が安いから行くという目的を持たないとだめですね。この学校がダメだったんで次に行けばなんとかなる,そこがダメなら次に行けばなんとかなるという渡り方をしたりダブルスクールをやっている人がいたりしたらいますぐ辞めたほうがいいですね。
どこの学校でも絶対に受かると思いますよ。現実に,僕は80%ぐらいの知識は東京法経学院で仕入れさせていただいて,あとは他の予備校で出している自分の好きな教材のところから5%ぐらい仕入れて,残りの15%くらいはまた別の予備校で補完した感じでした。情報があまりに膨大すぎるときは,一応ひととおり読んで,いらないところはすっ飛ばす,受験に受かるためにどれくらいの知識が必要なのかということを自分で持っていることが大事ですね。いらない知識は見るけど捨てるという勇気も必要だと思います。
森口 ぼくは勉強を始めて3年目くらいのときに仕事を辞めました。
3年間は仕事をしながら勉強していて,最後の2年は勉強だけだったということでした。
司会 4回も落ちて大変だったと思うんですが,そのときの気持ちの切り替えとか,あるいはこの勉強法でいいのかとか,この予備校でいいのか,この教材でいいのかという不安な気持ちは起こりましたか。
森口 そういう気持ちは起こりませんでした。やるべきことをやれば絶対合格できると確信していましたので。とにかく,落ちたときにはまだやりきれていないんだと考えました。それなので,やりきれていない部分を今後1年かけて補っていこうっていうふうに,すぐ気持ちを切り替えてやっていましたので,不安というのは少なかったですね。
司会 4年目に落ちたときはどうだったんですか。
森口 無理かなとは思いましたね。向いてないのかなと正直思いましたね。
司会 そこから立ち直るまでの期間というのはどれくらいでしたか。
森口 もう,すぐに。無理かなとは思いましたけど,まあ,次は大丈夫だろうとも思いました。
◆落ちた時にどうするか
司会 では,吉田先生,なかなか1年で受かるという人はいませんけれども,そういう落ちたときの対処法というのはどう考えていったらいいか,というアドバイスをお願いします。
吉田 残念ながら合格点に届かなかったということにもいろいろな理由がありますね。単純に間違った勉強法をやっていたとか,絶対的な知識量が足りなかったとか。
いろいろあるとは思いますが,本試験の結果を自分で分析してみるとわかるはずなんです。
たとえば,択一式は35問ありますが,その35問の中で何問確実に判断がついたのか,逆につかなかったのか。記述式であれば,どれくらいまで解答の筋道が判断できたのか,それともまったく判断できなかったのか,というところでその理由はわかるはずなんですね。
択一式の35問であれば,少なくとも25,26問は確実に判断できなければ合格最低点には届きません。それがたとえば10問しか判断がつかないというのであれば,絶対的な知識量が足りないか,もしくはやり方が間違っているわけです。そういったところを判断した上で,では自分に何が足りないのか。たとえば知識が足りないのであれば知識量を増やすとか,知識はあるけれど,それがあいまいになっているのであれば知識をしっかりと定着させていくだとか。でも,それまで自分が1年間やってきたことをある意味で否定するのと同じわけですから,非常に辛いと思うんですよね。しかし,非常に辛いながらも,それをしっかり直視しないと次の年にはつながっていかないと思いますね。
◆スランプ脱出法
司会 長い2年半と5年の受験勉強の期間中,体調もあるでしょうし,気分的な問題もあるでしょうし,また,落ちたショックもあるでしょう。それでスランプに陥ったというようなときがあるのではないかと思いますが,どうやってスランプを切り抜けてきましたか。後進の方たちの参考になると思いますので,一言,お願いします。
小林 2年目はさすがにストレスがたまりましたけれども,1年目は必死だったのでそういう意味ではあんまり苦労という感じはなかったですね。申し訳ないですけれども,僕はいままで生きてきてスランプという経験がないんです。
それに,これは怒られるかもしれないんですけれども,ノリで生きていけるのでスランプとは思わないですね。先ほど森口さんはポジティブとおっしゃっていましたけれども,もちろん僕も大ポジティブで,常に前に行くしかないと思っています。後ろを振り返っていたらその振り返っている1秒がもったいないと思います。
実際にはスランプなのかもしれないけれども,自分ではスランプだと思わないのがスランプに陥らない秘訣かもしれません。
だって,できないものはいくら悩んでもできないですから。だからできないことをできるようになるまでやり続ければいいことなんじゃないですか。それだけなのに,できないよと言って止まっていると時間をロスしてしまいますし,その時間がもったいないと思いますね。
司会 なるほど。あと勉強以外に別の選択肢というのがありますよね。つまり,司法書士だけが人生じゃないかもしれないから,転換しようとかはあまり考えなかったですか。
小林 僕の場合は逆です。歌がダメだったから司法書士の資格を取りに来たので。みなさんは司法書士を先に目指しているわけですよね。だからもしも6年,7年挑戦していてダメだった人は,1年間くらいは違うことをやったらどうでしょうか。それからもう一度戻ってくればいいですよ。そうすれば僕と同じ立場になりますね。そういう長くやっている人は,ずっと根を詰めてやっていながらどこかに「穴」を持っているわけですよね。そこにもう落ちちゃっているわけです。もう自分の武器ではそれ以上進めない状況にいるわけです。だから,新しい道具を取りに一度「穴」から出たらどうかなと思います。
司会 森口さんは5年間というけっこう長い期間ですけれども,やはりなにかスランプ状態というのはありましたでしょうか。
たとえば勉強したくないという気分のときはありませんでしたか。
森口 もちろんあります。でも,あっても1日ぐらいで。それでも夜には勉強をやっていたという感じなので,スランプというものはありませんでしたね。
司会 その勉強をしたくない1日を切り替えていく方法というのはご自分なりにありましたか。
森口 音楽を聴くことでしたね。クラシック系の音楽を聴いて気持ちを休ませると,また新たな気持ちにさせてくれるんですね。
小林 僕もふと思い出したことがあるんですけれど。モーツァルトの音楽にはアルファ波があるといいますよね。彼の音楽は耳を開いてくれるんです。講義が始まる前にモーツァルトの音楽を5分間くらい教室に流すといいなと。そうすると完全に耳が開くので。
司会 それはいいアイデアですね。
たとえば勉強したくないという気分のときはありませんでしたか。
小林 そうすると先生の声も自然と聞けるように,いい受け身のかたちになると思うんです。モーツァルトはストレスなく聴ける音楽なんです。アルファ波が出るくらいですから。それをちょっと僕は提案したいと思います。
司会 今度学院長に提案してみます。吉田先生はいっぱい生徒さんを見ていらっしゃいますが,スランプに陥っている方もいらっしゃるかと思います。スランプに陥ったときのアドバイスをお願いいたします。
◆気分転換のスイッチ
吉田 この試験は1年間に一度しかありません。
そして,1年半だとか2年半だとかと学習期間が続いていくわけです。ですから,スランプに陥るのは別に構わないと思うんです。中にはスランプに陥らない人もいますけれども。そういう人も実際にはスランプに陥らないわけではなくて,スランプに陥ったときに自分の中で自分の気持ちを切り替えるスイッチが入っているん
だと思います。ですから重要なのはそのスイッチをつくることです。たとえば先ほど森口さんがおっしゃっていましたけれども,勉強をしたくないと思ったときに,音楽を聴いてリフレッシュするということです。このスイッチは音楽を聴くことだけではなくて,子どもと遊ぶだとか,旅行に行くとか,何でもいいと思うんです。私は気分屋ですから,気分が乗ると勉強するんですが,気分が乗らなくなるとまったくやらなくなっちゃうんですね。それはスランプというよりはもう勉強に飽きちゃったんです。それで2週間くらいまったく勉強しないで,ひたすら朝から晩まで漫画を読んだこともありました。それが私のスイッチだったんですね。そのときに思ったのは,休むときはしっかり休む,そしてやるときはやるということです。一番いけないのは,休んでいるときに「ああ,まずいなぁ。今日やらなきゃいけなかったんだよな。できなかったなぁ」ということを思いながら休むことですね。それではリフレッシュできませんから。
休むときは休む。その代わりやるときはやる。休むときには期間を決めることも大事です。たとえば来週の月曜日までは休んで一切勉強しないけれども,そのあとはしっかりやるというように,メリハリをつけることです。いろいろな方をこれまで見てきましたけれど,だいたい一番最初に脱落する方は最初から飛ばし過ぎている方ですね。逆に,長く続く方というのは,一見本当にこの人やる気あるのかなという方が多いですね。「メリハリをつける」「自分のスイッチをつくる」というのがスランプに陥らない,また,スランプに陥ったときに早く立ち直るために重要だと思います。
司会 ありがとうございます。自分が合格できたことの理由のようなものを小林さんからお願いします。
【森口正臣さん】
◆周りの人と比べない
小林 ぼくは周りの人と自分を比べないようにしましたね。自分ができればいいというイメージですね。講師が「これからみなさん100キロマラソンに出ます」という話を最初にされたんです。とにかく僕は聞いたものはすべて記憶しようと思っていたので,この話を覚えているんです。マラソンだからスタートダッシュは必要ないんです。それで,100キロあるんです。フルマラソンのような42.195キロより司法書士試験はきついですよ。ただ,100キロマラソンですが1年間に100キロ走ればいいので,1日1キロでも十分完走できます。でも,不合格だった瞬間に倍の200キロになるんです。さらに次の年は300キロになるんです。ただし,確実に1年間で100キロは進んでいるわけですよね。
ゴールのテープを切れなかった人は,ただ100キロ距離がまた延びるだけで,脱落したり,止めるのは簡単ですよね。だから止めないで,ああ100キロ延びた,また100キロ延びたという感じで思えばいいんです。実際に僕はそう思っていました。僕ができればいいんだと。たまにきついときには,僕は隣にいる人に話しかけるタイプなので,「森口さん」を誘ったり,頑張って先生のところに行って「ちょっと教えてください」といって質問したり,またマイペースに戻って勉強したりしていました。とにかく,もうずっと前に進むしかないですよね。マラソンで後ろに行く人はいないですよね。ゴールに向かってない人はいないですよね。だけど,ゴールに向かわない人はたまにいるんですよ。この試験では逆の方向に行っちゃう人がいるんですよ。まさに,ゴールは見えているんだけどテープを切れるか切れないかはその人の運ですよ。それでもダメだったら100キロまた延びるだけで,いつ到達するかはわからないですけれど,走り続ける人はわかるんじゃないですか。
◆母の支えがあったから
森口 やはり長い期間勉強しましたので,あき
らめずに続けることができたから合格できたんだと思います。なぜ続けることができたのかと言いますと,やはり「支え」ですね。
家族であったり友人・知人であったりという,後ろに支えてくれる人がいたから,常にそう思うことができたからこそ続けることができて,合格につながったんだと思いますね。
中でも両親,とくに母親の激励の言葉とか励ましですね。言葉もそうですけれども,ボールペンをプレゼントしてくれたりということもありましたね。
司会 いちばん喜んだのはお母さんですか。
森口 そうですね。もう泣いてくれました。
司会 いい話ですね。この座談会もお母さんへのいいプレゼントになりますね。
小林 僕が思っていたのは,『水戸黄門』の2番です。「人生勇気が必要だくじけりゃ誰かが先に行く後から来たのに追い越され泣くのが嫌ならさあ歩け」これですよ。僕はそれをいつも思いながらやっていましたね。「てんててててん」と(笑),この歌詞をずっと思いながらいましたね。そうですよね。「くじけりゃ誰かが先に行く」し,「後から来たのに追い越され」たって構わないわけです。でも,泣くのが嫌だったら本当に行くしかないという『水戸黄門』の2番は,僕の受験生活の中でアツかったですね。支えていただきました。
司会 では吉田先生,たくさんの生徒さんを見てきて,合格する傾向の人とそうならない人,つまり,能力差もまったくないわけではないでしょうけれども,それとは違うファクターがあるんじゃないかという気がします。先生の受験指導の中からいかがでしょうか。