私は大学(文系学科)を卒業後、9 年間フルタイムの事務職に就いたのち退職。その後1年半、地元の土地家屋調査士の補助者として勤務しつつ、土地家屋調査士試験に挑戦しましたが、結果は不合格。勉強と仕事の両立の難しさに直面し、家族と話し合った上で土地家屋調査士務所を退職。実家の営む自営業を継ぎながら、約1 年間試験勉強に集中し、令和2 年度の本試験において合格することができました。
家族構成は、妻(フルタイムで勤務)と、子供二人( 2歳と4 歳)の合計4 人です。合格した年は、東京法経学院の新・最短合格講座(通信教育)を受講しました。
試験に挑戦した1年目、2年目は、択一式問題の足切りに引っ掛かり、記述式の採点もされませんでした。その原因は、東京法経学院の新・最短合格講座を受講していたにもかかわらず、仕事との両立ができず、講義の視聴や課題の提出をしっかりと取り組むことができなかったからだと反省しています。また、勉強は続けていたものの、毎日机に向かうのではなく、何日か勉強をしない日を挟んでしまったことも反省点の一つです。やはり、ほかの方々も書いてあるように、毎日ちょっとずつでも土地家屋調査士試験の内容について考える時間を持ち続けることは、知識を頭にインプットする上で非常に重要なことだと思います。
2 年間の失敗を踏まえ、3 年目は仕事を辞め、実家の自営業(家族経営)を継ぎながら、試験勉強として提出課題を期限内に終わらせ、すぐに解説講義を視聴し、復習するようにしました。また、空いた時間は関連図書(内堀式択一過去問題徹底理解塾)を読むように心がけました。とにかく答案練習会の問題を解いた後は、すぐに講義を視聴し、都度講師の先生方が説明した部分を解説本に追記し、必要であれば別のノートやカードにまとめ、ポイントを覚えるように努めました。
はじめは択一式問題は4分の1程度しか正解できず、記述式問題も添付書類や土地建物の表示欄など正確に記載することができませんでしたが、それでもめげずに、継続して講義を視聴し続け復習を重ねていくうちに、少しずつ解けるようになっていきました。今振り返ると、その過程が試験対策の骨子となる部分であり、勉強をする上で一番辛かった時期だったと思います。どうしても、解答に自信がなかったり、正答率が低いことがわかっているうえで毎週新しい問題にチャレンジするのは腰が重くなりがちだと思います(少なくとも自分はそうでした)が、一度その時期を超えて、しだいに7〜8割程度の問題が解けるようになってくると、前向きな姿勢で新しい問題に取り組めるようになりました。択一式・記述式問題の両方について、「はじめから正答できないのは当たり前」と割り切って、重要なのは「なぜ間違ってしまったのか」や、「正しい解答の導き方」を理解することであり、二度と同じ間違いはしないように強く心がけることだと思います。答練の結果が悪くても、それはそれと受け入れ、「すぐさま」講義を視聴することで、壁にぶつかりながらも少しずつ前進している実感がありました。机に向かって問題を解いているだけではどうしても集中力を維持するのは難しかったので、講義動画を視聴することで勉強に対する集中を維持することができたと思います。
特に記述式問題における申請書の書き方がなかなか上達しなかった私は、答案練習会の問題を解くごとに、自分の言葉でA 4 用紙1枚に収まる程度で、その問題の登記目的や土地・建物の表示欄を記載するうえでのポイント、文章で解答する問題の内容や求積問題の計算方法等を箇条書きでメモするようにしました。それを綴ってまとめておき、後で同様のポイントを含む問題があったときに見返すようにしました。特に本試験直前期はそれを見返しながら総復習に役立てました。もちろん各答案練習会の問題ごとに解説本で詳しく内容は説明されておりますが、本当の意味で理解していないと自分の言葉でポイントをまとめて書き出すことができないため、スムーズに頭にインプットする効果的なやり方だったと思います。
また、同じく記述式問題対策として、自分なりに効果的だったと思う勉強方法は、A 4 サイズのトレーシングペーパーを購入し、一度解いた問題で、難しいと感じた問題や、間違いが多かった問題の申請用紙を繰り返し手を動かして書く練習をしました。2 部送られてくる問題用紙の1枚は通常通り解答・提出し、もう一枚の予備の問題用紙は白紙のまま、トレーシングペーパーを重ねて何度も解答練習をするというやり方です。そして本試験直前期は白紙の申用紙を見ながら、登記目的や添付書類、表示欄の内容を口に出して解答するようにしました。月並みですが、頭と手(と口)を繰り返し動かして問題を解くやり方が、記載事項を覚える近道だと思います。
ただ、やはり土地家屋調査士試験の範囲は広いため、常に、「昔解いた問題のポイントを忘れてしまってはいないだろうか?」という不安は尽きませんでした。特に試験日が近づくほど、その不安を強く感じました。それに対しては、繰り返すようですが、毎日ちょっとずつでも問題を見返し、例えばお風呂に入っているときや、電車に乗っているときなど、ふとした時に試験容について考えることが大事だと思いました。もちろん仕事をしながら勉強している方など、オンオフやメリハリをつけて勉強するのも大事だと思いますので、やり方は人それぞれですが、自分の場合は、毎日問題に取り組むことで上記の不安を減らし、それが少なからず自信につながっていったと思います。
試験直前期については、過去問7 年分程度を解き、本試験の難易度をイメージするように努めました。それまで何十回と時間を図りながら答案練習会の問題をこなしていれば、おのずと自分なりの時間配分や解答スピードが身についてきていると思います。私は択一、建物、土地の順番で各50分ごとの解答時間を目安としていました。過去問1 回1 回を、本試験だとイメージして、時間を図りながら解答し、間違ったところはしっかり復習し、二度間違えないように注意しました。
本試験当日においては、感染症予防対策として入り口で検温(ウォークスルータイプ)があったり、机の間隔が広くなり、自分の前後・左右が空席となったりしましたが、比較的大きな混乱もなく、試験に集中できたと思います。どうしても択一式問題の解答スピードの違いから、周りがガサガサと記述式問題の解答を開始する音が聞こえると、気持ちが焦りそうになりますが、そこは落ち着いて。あくまで自分のペースで解答に集中するようにしました。余談ですが、私はいつも赤鉛筆で記述式問題のポイントとなる部分に線を引いているのですが、記述式問題に取り掛かると同時に赤鉛筆の芯が根元から折れてしまったため大変焦りました。気合を入れて鉛筆を削ったのがあだになったのかもしれません。気を取り直して赤のボールペンでポイントをマークしましたが、すべての筆記用具は必ずスペアを持っておくべきでした。
私は全くの異業種からの転向であるため、法務や測量の事前知識はゼロからのスタートでした。はじめは解答しても解答しても一考に正答率が上がらず、合格するイメージがなかなか湧かず不安になりましたが、そんなとき、講義の中で内堀先生が仰ってくださった、「一度土地家屋調査士試験を目指して歩み始めた以上、最終的に合格するか途中であきらめるかの二択しかないんです。自分の可能性を信じて頑張るしかないですよ。」という言葉には何度も背中を押されました。これはすべての資格試験の勉強に言えることだと思います。今回私は、大切な家族の温かい支援のおかげで土地家屋調査士試験に合格することができましたが、この先も、試験勉強を通して経験した辛さを忘れずに、自分の可能性を信じて頑張りたいと思います。
●口述試験について
口述試験は、渋谷駅近くのビルに、朝8時40分までに集合であった。集合時間に遅れると試験を受けることができないため、大事をとって会場ビル近くのホテルに前泊することとした選択は、結果的に正解だったと思う。(私の家は東京まで車で2時間ほどかかるため)
当日、8時ごろに会場となるビルに着くと、同様の受験者も何人か居り、5 人ほどでエレベーターに乗り、会場となるフロアへ向かった。エレベーターを出ると案内係の職員が待機しており、促されるまま待合室前の廊下まで歩く。5 名いた受験者は自然と一列となり、そのまま廊下へ並ぶ。待合室前で受験票を確認し、順番に部屋に入室するが、その際たまたま私の確認が前にいた方より早く終わったので、その方を追い越して部屋に入ろうとすると、係員から、「順番はそのままでお願いします。」と声をかけられた。待合室に入ると、すでに三、四十名ほどの受験者が順番に席についており、入室した順番で順番に席に着くよう促された。事前情報ではくじ引きにより試験の順番が決まると思っていたが、今回はそうではなく、会場に入室した順に試験時間が決まる形式だったとその時分かった。
私はたまたま前から2番目の席に座ったため、試験時間が9 時30分からとなったため、それほど待つことなく、試験に臨むことができたが、もし2 人分早く(もしくは3、4人分遅く)入室していたら、試験開始まで2 時間以上待合室で待っていなければいけないこととなったと考えると、運がよかったと思う。
集合時間となる8時40分までは、終始職員が注意事項(集合時間まではトイレは自由だが、それ以降は挙手してトイレに行ってもらう点、試験時間になったら荷物をすべて持って会場となる教室に向かう点、机上に置かれた本人確認用紙に受験番号や、席に振られた〇組〇番といった番号、氏名などを記載してほしい点など)が繰り返しアナウンスされた。
その際記入する用紙の一つに、合格証書の受け取りを希望する法務局を記載する用紙もあり、後日郵送にて提出することもできるが、当日口述試験会場でそのまま提出することも可能であるとアナウンスされたことから、少々気が早いのではないかとも思いつつ、よほどのことがないと落とされることはないのかな、と一瞬思った。口述試験対策は私なりに十分やったと思えていたので、絶対合格するんだと考え、その場で希望する法務局を選択し、用紙を提出した。
時間になると、係員に促され、試験会場となる教室前まで誘導された。係員より、「先に入室していた受験者が教室から出てきた後、中の試験官から「どうぞ」と声を掛けられるまで待っていてください」と言われたので、その通りにする。
「失礼します」と声をかけ入室し一礼。置かれた椅子の前まで向かうと、試験官より「どうぞおかけください」と言われたので、荷物を脇に置き、着席する。試験官は2名。窓を背にして座っており、部屋のレイアウトはおおよそ学院よりいただいた受験対策資料通りであった。
試験官「まずは本人確認を行いますので、受験番号と氏名、生年月日をお教え下さい」
私「受験番号〇番、氏名、生年月日です。」
試験官「ありがとうございます。ではこれから口述試験を開始します。不動産登記法や土地家屋調査士法について、何点か伺います。」
私「よろしくお願いします。」
試験官「ではまず不動産登記法から伺います。登記官が職権ですることができる登記はどのようなものがありますか。」
私「はい。一般的に報告的登記と呼ばれ、土地または建物の表題登記、表題部の変更または更生登記、建物の合体による登記など、不動産の物理的状況に応じてする登記は登記官が職権ですることができます。また、形成的登記でも、一筆の土地の一部が別の地目となった場合の分筆の登記や、一筆の土地の一部の地番区域が異なった場合、地図を作成するために必要であり、所有者等の異議がない場合の分筆又は合筆登記も職権ですることができます。」
試験官「今、報告的登記と形成的登記という言葉がありましたが、それぞれの登記の意義を登記の目的を例にあげて説明してください。」
私「はい。報告的登記とは、土地または建物の表題登記、表題部の変更または更生登記、滅失登記、建物の合体登記等のように、不動産の物理的状況に応じてする登記であり、不動産の所有者に申請義務があります。一方、形成的登記は、土地の分筆・合筆登記、または建物の分割、区分、合併登記のように、不動産には物理的に一切手を加えず、登記上の個数が変更される登記を言います。形成的登記には申請義務はなく、原則、登記官が職権ですることもできません。
試験官「報告的登記の申請義務者が、その申請を怠ったときはどうなりますか。」
私「10万円以下の過料に処されます」
試験官「土地の表示に関する登記のうち、申請義務が課せられているものを言ってください。」
私「表題登記、地目又は地積の変更の登記、滅失の登記です。」
試験官「権利の登記には申請義務がなく、表示に関する登記に申請義務があるのはなぜですか。」
私「権利に関する登記については、対抗要件を備えるため、所有権や抵当権を設定するなど私益的な目的でなされるため、申請するかどうかは申請人の判断にゆだねられるべきですが、一方表示に関する登記については、不動産の物理的現況を正確に登記記録に反映させなければならないという公益的な目的があるため、申請義務が課せられていると思います。」
試験官「はい、それでは、登記官は必要に応じて、実地調査を行う場合がありますが、では、登記官が実地調査を行わなくてもよい場合とは、どんな時がありますか」
(この質問については、私は全く答えが思いつかず、質問を繰り返したり、考えるそぶりなどをして時間を稼いだ)
試験官「一般的には登記官は実地調査をおこないますよね。それをしないでもよいという場合は、どんな場合でしょうか?」
(試験官はあくまで穏やかな声で、優しく質問の意図することを繰り替えしおっしゃってくださった)
試験官「それでは、この質問についてはまた後で伺いますので、次の質問にいきましょう。それまでに思いついたら、その時お答えください。」
私「わかりました。申し訳ありません。」
ここからもう一人の試験官が質問する。頭は完全に真っ白で、答えは思いつかなかったが、なんとか気を取り直して次の質問に集中する。
試験官「表題登記がある甲建物の所有者が、甲建物の敷地内に乙建物を新築した場合に、乙建物を甲建物の付属建物として登記をするための要件を言ってください。」
私「はい。甲建物と乙建物が、効用上一体として利用される状態である点と、所有者の意思に反していない点が要件となります。」
試験官「そうですね。では、建物には区分建物というものがありますが、建物の分割の登記と、建物の区分の登記の違いを言ってください。」
私「建物の分割の登記は、表題登記がある建物の附属建物を当該表題登記のある建物の登記記録から分割して、登記記録上別の1 個の建物とする登記をいいます。一方、建物の区分の登記は、表題登記のある建物又は附属建物であって、区分建物の要件となる構造上の独立性や利用上の独立性などを備えている場合に、それらの建物を登記記録上、区分建物として登記をすることを言います。」
試験官「はい。それでは、建物の申請書欄についてお聞きします。一般的に、建物の名称を記載する箇所は、なんという欄ですか。」
(しばらく考えて)
私「区分建物の場合は建物の名称欄、非区分建物の場合は建物の所在欄です。」
(そのまま同じ登記官が質問を続ける)
試験官「はい、それでは、土地家屋調査士法についてお聞きします。調査士法の第二条の職責を言ってください。」
私「はい。土地家屋調査士の職責は、常に品位を保持し、業務に関する法令および実務に精通して、公正かつ誠実に業務を行わなければいけないということです。」
試験官「なぜそのような規定がおかれているのですか。」
私「はい。調査士の業務は、極めて専門的な知識と技能を有していなければならず、またその業務は不動産の現況を素早く正確に公示するといった、公共性の高い業務だからです。」
試験官「調査士がしてはいけないことを3 つ言ってください。」
私「はい。業務について虚偽の申請や測量をおこなってはいけないことと、業務上知りえた情報を他に漏らしてはいけないこと、それに2以上の事務所を設けてはいけないことがあります。」
試験官「今、秘密保持の義務についておっしゃっていただきましたが、なぜそのような義務があるのでしょうか。」
私「はい。例えば筆界特定手続きや民間紛争解決手続きの代理業務を受けた際、弁護士と共同受任する場合や、相手方に弁護士がついている場合に、弁護士法の規定では秘密保持の規定があるのに、調査士の場合にその規定がないと、バランスが取れなくなってしまうからです。また、筆界確認や表題登記など、表示の登記については、隣接地の所有者との個人的ないざこざや、建設計画など、プライバシーにかかわる個人情報を多く扱う可能性が高いことから、調査士に秘密保持の義務がないと、依頼者が安心して相談することができなくなってしまうからです。」
試験官「わかりました。( 2 人の試験官が軽く目配せをして)これで口述試験を終わりにします」
(ここで、先に答えられなかった質問についてそのままになっているので、どうすればよいのかと、質問した試験官を見つめると、先に質問した試験官が口を開く)
試験官「どうですか。先にお聞きした、登記官が実地調査をおこなわなくてもよい場合について、何か思い出しましたか。」
(全く思いつかなかったため、その旨を伝える。)
私「申し訳ありません。わかりません。」
試験官「あくまで試験はこれで終了として、どうでしょう。何か思いつきませんか」
私「うーん。申し訳ありません。」
試験官「そうですね。おそらく答えをお聞きになれば、あ、そうか、と思うかもしれませんが、それは、調査報告書を提出した場合や、公衆用道路の分筆などの場合です。」
私「あっ、調査報告書ですね。わかりました。ありがとうございました。」
(以前、補助者として勤務していた際、毎回調査報告書を作成していたが、それを提出することで、登記官による実地調査がおこなわなくてもよいことになっていたことは知らなかったし、筆記試験対策の勉強時も、調査報告書についてはノーマークだったので、完全に自分の勉強不足であった。)
試験官「これで口述試験は終了です。」
私「ありがとうございました。」
一礼し、荷物を持って退室する。
隣の部屋の受験者が終了するまで廊下で待機し、隣の部屋の受験者が出てくると、2 人そろってエレベーターに乗り、会場を後にした。
【全体的な感想】
実地調査の免除についての質問は完全に勉強不足であったため悔やまれるが、それ以外の質問については概ね事前に対策したため、自信を持って答えられたと思う。学院からいただいた口述試験対策資料に載っていない質問もあると想定していたが、完全に想定外の質問であったため、しょうがないと思う。その後、頭が真っ白になった状態を引きずらず、切り替えられたのは、事前に何度もテキストの質問と回答を音読していたからだと思う。
試験官はおおむね優しく、回答に詰まると、ヒントのようなものを出してくれた点はありがたかったが、コロナ対策で部屋の窓が開けられており、お互いにマスクを着用したままで、なおかつ外から渋谷のメイン通りの喧騒が入ってきていたため、何度か質問がよく聞こえず、もう一度質問をおっしゃっていただくように催促することが2〜3 回あった。試験開始直後、試験官より「声はよく聞こえますか」と確認され、その際は「問題ありません」と答えたが、道路をトラックが通ったりすると、やはり聞こえづらいので、遠慮せずに再読してもらった方がよいと思う。