不動産に関する法律知識ゼロからのスタートでした。私は中卒で5年かかって53歳でようやく合格となりました。
平成21年度も82点もとりながら不合格となり,その悔しさと言ったら言葉にならず,連日おち込みました。
私は家の経済的理由から高校に進学する事ができませんでした。一時札付の不良をやっていた時期がありました。その後縁あって今の家内と結婚しました。その義父の職が土地家屋調査士でした。この資格取得の原点はその頃にあります。
その後,測量士補(27歳),測量士(29歳)と試験に合格しました。そして測量会社に転職しました。そして独立(33歳)して,子どもも
4人授かりました。40歳でマイホームを建て,誰から見ても逆境からはい上がった人生の成功者と思われました。しかし順調であった会社も46歳で廃業となってしまいました。考えてみれば幼少期に親を亡くし貧乏のどん底に落ち,進学もできず不良になってまたどん底に落ち,そしてせっかくの会社がつぶれて3回目のどん底となりました。会社の経営者から一転無職となり,今度は測量の助手,建築現場,運転手等,どれも長つづきせず転々としながら人の社会の厳しさを痛感しました。
そんなある日の事,妻や子ども達の事を考えた時,このままではだめだと思い立ち,決心をして再起の為に資格取得に向けて勉強を開始しました。
朝は4時半に起き,朝食抜きで2時間〜3時間勉強してから出勤しました。仕事の空き時間に地下室の物置部屋の机を借りて勉強しました。
約1年間無職で子どもにはバレない様に図書館に“出勤”していた時期もありました。
初めての受験は平成18年でした。勉強時間不足でというか実力不足で不合格でした。平成19年はミスしてしまって不合格となり,平成20年は体調不良で不合格となりました。平成21年はあと少しのところで落ちてしまいました。
そして今年,平成22年8月22日,5回目となる本試験の日。朝からとても暑い日でした。試験会場である東京大学に来ると昨年と同じく東京法経学院の皆さんから「渡辺さん頑張って!」と励まされましたが,緊張の為まともに返答できませんでした(ホントはありがたい気持ちだったのですが…)。
入室後,机にすわり,何回も受けている午前の部の時間に合わせるために時計の針を3時間半戻し,9:30(実際は13:00)にしました。
ちょうどその時に「それでは始めて下さい。」となりました。
択一問題は,いつもの様に第20問から解答し,民法のあと1問という所で時計を見ると10:11(13:41)でした。ここでやめて記述式の建物
の問題に移ろうかとあせりましたが,この1問が一番大事と(正解でした)思い直し,択一が終ったのは10:14(13:44)でした。この頃にはもう早い人は記述式に移っており,一部でガサガサと音がしていました。
部屋の冷房は暑さのせいであまり効いていませんでした。しかし,暑いと思っている余裕はなく,全く気になりませんでした。
建物は全くの予想外の合体の問題でした。平成18年に初めて出題された事から,あと10年は出ないだろうと思っていた盲点をつかれた感じがしました。合体の問題は,書き込む文字量が多く(平成21年の倍以上ある感じ),図面を書き終えたのは11:10(14:40)でした。あと50分しかありません。
土地の問題に移ると何だか訳のわからない事がゴチャゴチャ書いてあり,問題の論点が良くわからないまま,とにかく計算が出来なければ何にもならないので,必死になって計算し,横目で時計を見るとあと15分!
この時,時間に追われて計算しながら思いました。「もう間に合わないな……。」「完答は無理だな……。」と気づいた時,どうしようもない気持ちにおそわれました。「残りあと10分です。」とアナウンスが入ってもまだ図面は真白でした。
そこから先は,昨年受験された方々は皆,似たような状況だったのではないでしょうか。検算も出来ず,無理やり測量図を何とか形にして,あとは運まかせという状態でした。
平成21年と同じく達成感のないまま帰りの電車に乗りました。答練で顔見知りの人に「お茶でも……」と誘われましたが,そんな気分にはなれませんでした。
9月になり,10月になり,カレンダーの丸印の日を毎日見る日々となりました。待ちに待った10月27日(水)の夕刻,東京法務局手前で家内と待ち合わせました。
平成21年の事がトラウマとなっており,その掲示板の前に立った時はとてもドキドキしました。沢山の数字の中から自分の番号を見つけた時は,嬉しさのあまり,人目もはばからず,2人でバンザイをしました。この時の嬉しさと,安堵の気持ちは一生忘れる事はないと思います。
さっそく心配をしてくれていた子ども達に電話やメールを送りました。その場からお世話になった東京法経学院にも報告をしました(電話に対応された方の声には聞き覚えがあり答練の司会のあの人だなとわかりましたし,先方も私の事は知っている様でした)。
先日最後の口述試験を無事に終え,やっとこれで長い戦いが終ったなあと思いました。
今まではいつも伏し目がちで目線は下向きで歩いていた様な気がしますが,今は何だか心が軽くなった様で,まるで高見盛が勝って土俵を引き上げるがごとくの気分で,胸を張って上を向いて歩いている自分を発見して嬉しく思う毎日です。
今日,久々にノートを開き,15冊目になるノートの自己の言葉を見てこの体験記を書く気になりました。本試験前の6月14日の日付のその一言は,
「最悪のどん底から努力して目標を達成したとすれば,今のこの時期は,己の人生を支えた最良の期間であった事になるはずである。だから今日一日を大切に頑張るべし!」
とありました。あと10年先にまた,読み返したいと思います。