土地家屋調査士は将来的に独立・開業しやすい仕事として人気があり、資格取得後に一定の経験を積んで独り立ちする人が多くいます。
ただし実際に自分で事務所を立ち上げるためにはさまざまな準備が必要です。この記事では開業までのキャリアパスや開業の際に必要なもの、独立前に経験を積む事務所選びの方法などについて具体的に解説します。すでに開業して活躍している先輩たちの失敗談も紹介するので、反面教師として参考にしてください。
目次
土地家屋調査士とは
土地家屋調査士は不動産の測量と表題登記に関する申請手続きの代理などを行う専門家です。「登記」とは権利関係を公示することで、不動産登記は不動産の所有者や所在、利用状況などの登記を意味します。
また不動産登記は大きさや形などの状況を表す「表題部(表題登記)」と、不動産に付いている権利の状況などを示した「権利部(権利登記)」の2区分あり、表題部を扱うのが土地家屋調査士です。
土地家屋調査士として独立・開業までの手順
土地家屋調査士として独立開業する場合、以下のような手順が必要です。
①土地家屋調査士試験に合格する
②実務研修を行う
※全くの実務未経験者の場合は、土地家屋調査士として登録する際に実務研修を薦められます。実務研修は土地家屋調査士事務所や通信講座などを利用して実施されます。
③土地家屋調査士連合会に登録する
※土地家屋調査士として働く場合、登録は必須となります。
④必要に応じて事務所やオフィスを手配する
⑤税務署に開業届け(個人事業主開業届)を出す。また必要に応じて県税事務所に事業開業報告書を出す
⑥測定機材や事務用品・名刺などを手配する
⑦事業スタート
自分で事務所を立ち上げるまでにいくつかの段階を踏む必要があります。
土地家屋調査士が開業するために必要なもの
土地家屋調査士は土地家屋調査士試験に合格し、日本土地家屋調査士会連合会の「土地家屋調査士名簿」に登録することで開業できます。ただし名簿に登録する際には日本土地家屋調査士会連合会へ手数料の納付が必要です。開業できる資格を得られたら以下で紹介する準備も併せて行いましょう。
運転資金
事務所を運営するにあたり必要となる資金は、開業時にしっかり準備しておきましょう。開業してもすぐに仕事が軌道に乗るとは限りません。仕事が安定するまでは収入を十分に得られない可能性もあるため、事務所に置く機器の購入費などだけではなく当面の生活費も用意しておくと安心です。
開業に向けて用意しておくべき運転資金の金額は人によって異なります。たとえば当面の生活費は家族構成やほかの家族の収入状況などにより変わってくるものです。また事業資金の融資を受けたり、機器の購入にローンを利用したりする場合には収入がなくても返済しなければなりません。そのためさしあたりの返済金も別途用意しておく必要があります。
測定機器等
事務作業や書類の作成に使用するパソコンや周辺機器などだけではなく、土地家屋調査士の業務で使う測定機器も開業時に一式準備しなければなりません。測量時の目標として使用するピンポールや距離を測る巻き尺、高さなどを測る箱尺など測定作業にはさまざまな機器を使用します。距離と角度を同時測定できるトータルステーションのような高額な機器もあるため、購入資金は計画的に準備しましょう。
予算の問題で測定機器に十分な資金をかけられない場合には、測定機器の販売会社やインターネット上などで中古品を探すのもひとつの方法です。
オフィス
オフィスは必ずしも賃貸物件を借りる必要はなく、自宅の一部を利用することもできます。土地家屋調査士の仕事はお客さんが事務所を頻繁に訪ねてくるようなものではないため、無理して家賃のかかるオフィスを借りる必要はありません。自宅兼オフィスにすれば通勤時間も節約できます。
ただし自宅の一部をオフィスとして利用する場合には、私生活と仕事が混在しやすくなるため意識的にメリハリをつけることが大切です。たとえば自宅の庭などにスペースがあればプレハブを建ててオフィスとして使用することで、通勤時間がかからないメリットはそのままに公私の区別がつけられます。庭やプレハブは仕事の機材置場としても重宝します。
開業届等の届出・申請
開業する際にはオフィスの住所地を管轄する税務署へ開業届を提出します。開業届は「個人事業の開業・廃業等届出書」が正式名称です。新たに事業所得を得るようになった場合は1カ月以内に書類を届け出る必要があります。
また税務署へ開業届を出す際には一緒に「青色申告届」も提出しておきましょう。確定申告の際に最大で65万円の控除を受けられます。さらに表題部の登記をオンラインで申請できるように手続きをしておくと便利です。手数料はかかるものの法務局の窓口へ出向く手間を省けます。
その他開業に必要な物品
土地家屋調査士として仕事を始めるためにはオフィスや機材の用意だけではなく、そのほかの細かな準備も忘れてはなりません。たとえば事務所専用の電話番号やメールアドレスは仕事の受注などの際に必須となります。自宅兼オフィスの場合には自宅の電話と別に固定電話の番号を取得し、外出時には携帯電話へ転送されるよう設定しておくと便利です。
またホームページや看板を設置しておけば存在を知ってもらうきっかけとなり、宣伝活動につながります。さらに社判やゴム印、名刺、作業着なども実務に欠かせないものであるため、忘れずに用意しておきましょう。
独立開業に掛かる費用
土地家屋調査士が独立開業する場合の費用については、以下のようなイメージとなります。
・土地家屋調査士連合会の登録費用、会費など……約25万円
・測定器具一式……約20万円
・パソコン、プリンタ、実務ソフトなど……約30万円
・その他(文具や名刺など)……約5万円
合計)約90万円
以上のように事務所などを構えず単身で仕事をする場合は、約90万円程度あれば開業できます。
その他、必要に応じて以下の様な費用が発生してきます。
・事務所・オフィスの賃貸料、光熱費など・・・10万円~
・事業で使用する自動車やバイクの購入費用、維持費・・・金額は状況による
・人件費・・・金額は状況による
例えば一等地に事務所を構え、スタッフを何人か雇うなどを想定すると、数百万円レベルのランニング費用が必要になってきます。
独立した土地家屋調査士のよくある失敗例
土地家屋調査士として独立・開業して現在活躍している人でも、過去に多かれ少なかれ何かしらの失敗はあるものです。ここではよくある失敗事例を4つ紹介するので反面教師として参考にして独立後の失敗を防ぎましょう。
激安の中古機器を購入して失敗
開業資金を十分に用意できない場合には、事務所で使用する機器を中古で購入するのも方法であると先述しました。しかしあまりにも安価な中古機器を購入するとすぐに壊れてしまい、修理や買い替えを早々に行わなければならなくなる可能性もあるため気を付けましょう。
ある土地家屋調査士は、測量時用に中古車を激安で手に入れたもののかえってお金が高く付いてしまいました。現場への移動中に車の劣化が原因でエンジンが停まってしまい、レッカー車の手配や修理に多くの費用がかかってしまったといいます。さらにレッカー車の到着に時間がかかり、車に積んである仕事道具を一式持って仕事の現場へ行く手段もすぐに見つからず、大事な仕事の約束を破ることになってしまったことも痛手となりました。
人脈が作れずに失敗
独立・開業後に経営を安定させるためには、仕事の依頼につながる人脈をしっかりと築いておくことが重要です
実務が優秀だった土地家屋調査士が独立し開業した後、人脈がなかったために廃業に追い込まれた失敗事例もあります。事務所に所属して働いていたときにはたくさんの受注を受けて活躍していましたが、それは事務所が持つ人脈と信頼のうえで成り立っているものでした。
多くの場合開業後の人脈は自分でゼロから築かなければなりません。仕事を安定的に受けられるように不動産業者や建設会社、役所の建設・道路関係の担当者、他事務所の人などとのコネクションをできる限り広げておきましょう。関係者が集まる大きな交流会や会合だけではなく、地元のイベントなどに積極的に参加することも有効です。その土地の有力者や地主など仕事につながる地元の人との出会いが期待できます。
無理な仕事を引き受けて失敗
軌道に乗るまではできる限り仕事を受けて案件数を維持することは大切ですが、仕事の条件にかかわらずすべてを引き受けることは危険です。
実際に無理な仕事を引き受けたことで経営が厳しくなったケースもあります。開業したばかりの事務所の経営を安定させたいと、報酬が安い案件や納期が厳しい仕事もすべて受けていた土地家屋調査士の失敗事例です。
どのような案件でも引き受けるその土地家屋調査士の姿勢は評判を呼び、当初事務所の経営は安定していました。しかし無理のある仕事は負担が大きすぎて長くは続かず、途中から同じ仕事に対する報酬を高く設定したり納期を長くしたりしたため、事務所の評判が落ちて依頼が減ってしまったのです。
事務所経営を軌道に乗せて長く続けていくためにも、依頼者からの信頼を落とさないためにも、無理な仕事はきちんと断り適正な条件で仕事を受けるようにしましょう。
開業場所選びを誤って失敗
自宅とは別に事務所を設ける場合、コストを少しでも抑えるために家賃の安さを重視して開業場所を選ぶ人は少なくありません。しかしコスト重視の事務所選びで経営に失敗した事例もあるため要注意です。
「お客さんが訪れる機会が少ないから」と縁もゆかりもない田舎の安い物件を借りて開業した土地家屋調査士がいました。しかし近隣で土地の開発がなく、たまにあっても地元にコネクションがないため仕事を紹介してもらえず経営難に陥ってしまったのです。
そもそも土地家屋調査士の主な仕事が、ひとつの土地を分割したり複数の土地をまとめたりすることにあります。そのため土地の開発が行われないような場所では仕事の依頼は見込めません。特にコネクションのない地域で開業する場合は、土地に流動性があり案件の絶対数が多そうな都市部や人口増加が見込まれるエリアに開業したほうが安心でしょう。
どんなキャリアパスで独立・開業を目指すべきか?
土地家屋調査士は資格さえ取得すれば、事実上はだれでもすぐに開業できます。ただし事業を軌道に乗せ経営を安定させるためには資格を持っているだけでは不十分です。専門的な知識は当然のこと実務力も求められます。たとえば測量の際に使用する器械の使用方法や、調査報告書を始めとした書類の作り方など実務的な知識や経験も必要です。
そのため一般的には資格取得後すぐに開業せず、土地家屋調査士事務所や測量会社などに数年間就職し、ひととおりの仕事の経験を積んだうえで独立します。また事務所などで働いている期間に独立後に活かせる人脈を築いておく人も少なくありません。
土地家屋調査士として独立するメリット
土地家屋調査士として独立するメリットは大きく3つあります。1つ目は仕事のライバルが少ない点です。土地家屋調査士は弁護士や司法書士と同じく有資格者のみに認められた独占業務を持つ国家資格です。土地家屋調査士だけしかできない一部の業務においては、仕事を取り合うライバルが土地家屋調査士に限られます。
2つ目は開業資金が比較的少なくすむ点です。業務に最低限必要となる機材はそれほど多くなく中古でそろえることもできます。事務所も自宅の一部を利用すれば家賃不要でランニングコストを抑えることも可能です。
3つ目として開業の初心者でも成功しやすい職業である点も挙げられます。独立前に数年の経験を積みながら一定の人脈を作っておけば、独占業務もあるため比較的収入を得やすい仕事です。
資格取得後に働くなら「法人」「個人」どちらの事務所がおすすめ?
資格取得後に経験を積む場合、「法人事務所」と「個人事務所」のどちらで働くほうが開業の際に役立つのでしょうか。結論からいうとどちらも一長一短あるため、自分に必要と思う力をつけやすい事務所で働くことがベストです。
法人事務所はスタッフが多く分業制にしていることが一般的であるため、1つの業務に深くかかわることができて専門性を磨けます。しかし一通りの業務を身につけたい場合に時間がかかりやすい点がデメリットです。
対して個人事務所は少人数で仕事をこなしているので、1つの案件におけるすべての業務を1人に任せることが通常です。特定の業務にじっくりと向き合う時間を持てず多忙ですが、一通りの業務を経験できるので独立するための力を早く身につけられます。
このようなことから時間をかけてじっくりと業務について学びたいなら法人事務所、短期間で成長したいなら個人事務所がおすすめです。
まとめ
土地家屋調査士は専門的な知識が求められる難易度の高い国家資格です。そして資格を取得して一定の経験を積めば、将来的に独立・開業しやすい職業でもあります。独占業務があり定年もなく、工夫次第で開業資金を抑えられるため、手に職をつけたい人や長く仕事を続けたい人、多くの資金はないが独立したいと考えている人におすすめです。
東京法経学院では、土地家屋調査士の資格取得に向けて自分に合った勉強方法を選べます。用意されている講座は基本を確実に習得できる初学者向けのものから、実務者向けの実践的な実務研修までさまざまです。また自分の生活スタイルや勉強方法に併せて通学制と通信制から選ぶこともできます。
【参考】土地家屋調査士の独立・開業のしかた
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