土地家屋調査士とは、土地や家屋に関する調査や測量を行う専門家です。また、不動産登記の表示に関する登記を、不動産の持ち主に代わって申請することも可能です。
これから土地家屋調査士として活躍したいと考えている方の中には、廃業率が気になっている方もいるでしょう。
この記事では、土地家屋調査士の廃業率や将来性を解説します。あわせて、土地家屋調査士が廃業してしまう理由も解説するため、ぜひ参考にしてください。
■この記事でわかること
- 土地家屋調査士の廃業率
- 土地家屋調査士の将来性
- 廃業しないために気を付けるべきポイント
目次
土地家屋調査士の廃業率
「土地家屋調査士白書2022」によると、過去10年間(平成23年~令和2年)の土地家屋調査士の会員数と登録取消者数(廃業、または死亡など)、廃業率は以下の表のとおりです。
年 | 会員数(人) | 登録取消者数(人) | 廃業率(%) |
---|---|---|---|
平成23年 | 17,488 | 586 | 3.35 |
平成24年 | 17,328 | 567 | 3.27 |
平成25年 | 17,216 | 514 | 3.0 |
平成26年 | 17,111 | 501 | 2.92 |
平成27年 | 17,017 | 513 | 3.01 |
平成28年 | 16,940 | 551 | 3.25 |
平成29年 | 16,761 | 527 | 3.14 |
平成30年 | 16,625 | 496 | 2.98 |
平成31年 | 16,471 | 556 | 3.37 |
令和2年 | 16,240 | 462 | 2.84 |
失業率は常に3%前後で低い水準を保っています。登録取消者数は増減こそあるものの、減少もしくは上昇を続けている傾向はありません。一方、会員数は減少傾向となっており、このまま減少を続けると失業率が高くなる可能性もあります。
※出典:日本土地家屋調査士連合会「日本全国あなたの近くの土地家屋調査士 第5章」
土地家屋調査士に将来性がある理由
土地家屋調査士に将来性はあるのか?と気になっている方も多いのではないでしょうか。土地家屋調査士になるのはやめておいた方がよいというネガティブな意見もありますが、実際には将来性があり、やりがいもある仕事です。
詳しくはこちらの記事で解説をしています。詳しく知りたい方は、こちらの記事をご覧ください。
土地家屋調査士はやめとけと言われる理由は?仕事内容や将来性を解説
表示に関する登記は独占業務
まず、土地家屋調査士には、表示に関する登記という独占業務があります。独占業務とは、その資格を有する者でなければ携われない業務のことです。表示に関する登記は法律で義務付けられており、埋め立てや分筆などで新しく発生した土地がある場合には登記を依頼されます。そのため、よほどのことがない限り、土地家屋調査士の需要がなくなることは考えにくいでしょう。
また、個人からの依頼だけでなく国の工業事業などに関する依頼も発生するため、仕事がなくなる可能性は低く、安定性や将来性が高い仕事だと考えられます。
高齢化により相続に関する案件が増える予想
日本では高齢化が進んでいます。高齢化社会ではこれから相続が多数発生すると見込まれており、土地家屋調査士の仕事が増えると予測されます。
なぜ相続によって案件が増えるかというと、相続をきっかけに土地の分筆や売却が増えると考えられているからです。特に、団塊世代の高齢化によって、不動産の動きが活発になっていくでしょう。分筆や売却が増えることに伴って、表示に関する登記の依頼が発生するため、独占業務である土地家屋調査士の案件が増えると考えられます。
世代交代の時期
世代交代の時期が来ていることも理由の一つです。土地家屋調査士の年代構成は、60歳以上が半数以上を占めており、年齢層が高いことがわかります。一方、20代と30代は約5%と、若い世代の人数が少ないのが現状です。
今後、定年退職や引退などで土地家屋調査士の人数は、大幅に減っていくことになります。その分、若い世代に仕事が回ってきやすくなり、引退する人の穴を埋める意味でも、若い土地家屋調査士に対するニーズが高くなるため、将来性がある仕事だといえます。
公共事業の依頼がある
土地家屋調査士に対する依頼は、個人からだけでなく、国や地方自治体などの官公署などからの依頼もあります。公共嘱託登記制度によって、公共事業の仕事も受けられると仕事の幅が広くなるでしょう。
公共嘱託登記制度とは、道路や公共の建物の用地買収などのように、公共事業によって不動産の権利変動が伴うものである場合に登記申請を行うことです。一般的な登記申請と区別して、公共嘱託登記と呼ばれています。
公共嘱託登記土地家屋調査士協会が官公署による依頼を一括で受注し、協会の会員に分担する方式になっています。
AIに代替されない仕事内容
テクノロジーの進化や発展によって、AIに仕事を奪われるという問題が現実的になってきました。実際に、土地家屋調査士の仕事の一部も、AIにより効率化が進んでいます。例えば、不動産の調査にドローンを用いる、測量にAIを活用する場面は増えるでしょう。
しかし、土地家屋調査士の仕事のすべてをAIが代替できるわけではありません。土地家屋調査士の仕事の中には、人にしかできない業務も多数あります。代表的なものとしては、境界立ち合いが挙げられるでしょう。境界立ち合いをスムーズに進めるためには隣人とコミュニケーションが重要になりますが、これは人にしかできない業務です。
土地家屋調査士が廃業してしまう理由
土地家屋調査士は将来性のある仕事ですが、中には廃業してしまう土地家屋調査士もいます。なぜ、廃業の道を選んでしまうのでしょうか。ここでは、土地家屋調査士が廃業してしまう理由を解説します。
ランニングコストが高い
まずは、ランニングコストの高さです。土地家屋調査士として開業するには、事務所の家賃や機器類のリース費用などのランニングコストがかかります。
また、初期費用も比較的高額で、土地家屋調査士会への登録費用や入会金、事務所の敷金・礼金などが必要です。高い初期費用を払っても、すぐに業務が軌道に乗るとは限りません。軌道に乗るまではランニングコストが重くのしかかるため、耐えきれずに倒産・廃業してしまうケースもあります。そのため、開業する際には余裕を持って資金を用意しましょう。
土地の流動性が少ない立地
土地家屋調査士の仕事は、土地や不動産などに何らかの動きがあった場合に発生します。例えば、土地を分けるための分筆、土地をまとめる際の合筆、土地の売却などです。このように、土地に何らかの動きがあった場合に仕事が発生するため、そもそも土地の動きが少ない立地では案件がなかなか入ってこない可能性があります。
事務所の家賃の安さなどを重視して、土地の流動性が低い場所に事務所を構えてしまうと、仕事の依頼が少なくなってしまうケースもあるでしょう。また、少ない案件を他の土地家屋調査士と奪い合うことになるため、古くから事務所を構える土地家屋調査士がいる場合はそちらに仕事が流れがちです。
人脈作りに失敗
どのような仕事にもいえますが、コネによって仕事がもらえることも珍しくありません。面識がない人と面識がある人とでは、面識があってある程度人となりを知っている人に、仕事を依頼したいと考える方も多いでしょう。土地家屋調査士は仕事上関わる人も多く、人脈作りやコネづくりが重要です。
業務をスムーズに進めたり、事務所を安定して経営したりするためにも、コミュニケーション能力は欠かせません。その土地に溶け込めず人脈が作れない、人付き合いを怠ることは廃業の一因になります。業務外の付き合いも大事にして、人脈作りを積極的に行いましょう。
低価格で仕事の質が低下
価格設定のミスも廃業の一因となります。大手事務所やライバル事務所との差別化を図ろうとして、低価格に設定するケースも珍しくありません。しかし、価格を低く設定すると、その分数をこなさなければ経営が成り立たなくなります。
たくさんの案件をこなすには、一つひとつの仕事に丁寧に向き合っていては時間が足りません。そのため、どうしてもスピードを重視せざるを得なくなり、仕事の質が低下してしまう可能性もあります。仕事の質が悪くなれば評判も悪くなり、依頼が少なくなる恐れもあるでしょう。そのため、必要以上に低価格に設定せずに、他の面で差別化を図る工夫をすることが大切です。
廃業しないために土地家屋調査士が気を付けること
土地家屋調査士として廃業せずに長く活躍するためには、気を付けたいポイントがいくつかあります。
- 新技術を取り入れる
- ダブルライセンスを取得する
- 公嘱協会に入会する
ここでは、それぞれのポイントを詳しく解説します。
新技術を取り入れる
土地家屋調査士の仕事にも、さまざまな新技術が登場しています。例えば、ドローン測量や3D測量による製図などです。ドローンや3D測量などを取り入れることで、精度の高いデータ収集や効率的な測量、製図などが可能となります。
また、新技術を取り入れて活用することで、ライバルとの差別化を図ることもできるでしょう。新技術によって効率的かつ正確な仕事ができる点は、アピールポイントとして分かりやすく、仕事を獲得しやすくなる可能性もあります。
ダブルライセンスを取得する
ダブルライセンスを取得するのも良い方法です。ライバルと差別化しつつ、強みを得るには、土地家屋調査士と司法書士のダブルライセンスがおすすめです。司法書士とは不動産や会社の登記などをメインに行う国家資格であり、土地家屋調査士との相性も良い資格です。
司法書士として権利の登記を行い、土地家屋調査士として表示の登記を扱うことができるため、登記の手続きをワンストップで行えるようになります。すべて同じ人へ依頼ができるため、何度も手続きをする手間も省けて利便性がよく、依頼人にとって好都合でしょう。ダブルライセンスを取得することで独自性を打ち出しやすくなるのもポイントです。
公嘱協会に入会する
公共嘱託登記の案件を受けることで、ある程度経営が安定します。公共嘱託登記の案件を受けるには、公共嘱託登記土地家屋調査士協会、通称「公嘱協会」に入会する必要があります。公共嘱託登記は公嘱託協会が一括して受託して、協会員に分担する仕組みのため、まずは公嘱協会に入会しましょう。
また、他の調査士と知り合う機会ができることもポイントです。公嘱協会では同じ支部の調査士と協力して業務を進めるため、業務経験を積みながら他の調査士と関わりを持てます。情報交換や人脈作りの場にもなり、コミュニケーション能力の向上も期待できます。
まとめ
土地家屋調査士の廃業率は3%前後と低く、独占業務もあるためニーズの高い仕事です。しかし、残念ながら中には廃業に至るケースもあります。廃業しないためには、人脈作りや適切な価格設定、新技術の導入、ダブルライセンスの取得などを心がけましょう。公嘱協会への入会も良い方法です。
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