土地家屋調査士とは、登記簿(表題部)の記載事項に関して、登記申請を行う仕事です。建物を新築や増改築する際に、面積や使用目的などについて調査、測量をして申請や審査請求の手続きを行います。
そのような土地家屋調査士の仕事に興味があるものの、どうしたらなれるのか、未経験や異業種からの転職はできるのかと疑問に思う方もいるでしょう。そこで当記事では土地家屋調査士の受験資格や新規登録者の年齢、試験概要や合格後の流れを紹介します。土地家屋調査士試験に興味がある方は参考にしてください。
■この記事でわかること
- 土地家屋調査士になる方法が分かる
- 今からでも転職が可能か分かる
- 土地家屋調査士の就職先について知ることができる
目次
未経験でも土地家屋調査士に転職できる?
土地家屋調査士になるには、国家資格である土地家屋調査士試験に合格する必要があります。まずは土地家屋調査士試験の受験資格や、試験に合格して土地家屋調査士になった方の年齢を確認しましょう。
受験資格に制限はない
受験資格については、特に制限は設けられていません。年齢制限もなく実務経験も問われないため、学生・社会人問わず誰でも受験が可能です。
専門的な職種の国家資格なので、特定の学問を履修していないといけないイメージを持つかもしれませんが、学歴に関する条件もありません。高卒でも大卒でも、文系でも理系でも受けられます。誰にでも幅広く門戸が開かれている資格です。
※参考:法務省「令和6年度土地家屋調査士試験受験案内書」
土地家屋調査士新規登録者の9割以上が30代以上
日本土地家屋調査士会連合会「土地家屋調査士白書2022 第5章 日本全国あなたの近くの土地家屋調査士」によると、2020年度に新規登録した人数の年齢別の内訳は下表の通りとなります。30歳以上の方がほとんどで、年齢を問わず幅広い方が新しく土地家屋調査士になっていることが分かります。
土地家屋調査士新規登録者の年代構成(令和2年度)
年代 人数 割合
20歳代 22人 6.2%
30歳代 123人 34.7%
40歳代 134人 37.8%
50歳代 57人 16.1%
60歳代 14人 3.9%
※参考:日本土地家屋調査士会連合会「土地家屋調査士白書2022」P101
土地家屋調査士に向いている方
土地家屋調査士にはどのような方が向いているのでしょうか。土地家屋調査士の適性について紹介します。
体力がある
土地家屋調査士の仕事はデスクワークだけではなく、現地に赴いて作業することもあるため、体力が必要です。
依頼によってはかなり広い土地を測量したり、勾配のある土地を回ったりすることがあります。天候が悪くても現場に行かなければならないこともあるでしょう。依頼主の都合によっては、早朝や深夜にも業務が発生します。またコンクリートの杭を地面に打ち付けるなど、腕力が必要とされる現場もあります。
さらに屋外で仕事をするため、人目があるところでも作業ができる、集中力もあると良いでしょう。重労働ばかりではありませんが、体力に自信があって屋外作業に抵抗がない方が向いています。
数字やデータに強い
土地建物測量士の仕事は、数字やデータに抵抗がない方に向いている仕事です。資料調査では、役所や法務局から取り寄せた大量の書類に目を通し、データを扱う必要があります。また現地調査の測量では、ミリ単位の精度が求められます。そのため数字やデータを扱うことに苦手意識があると、仕事を苦痛に感じるかもしれません。
加えて業務では頻繁にパソコンを使用するため、パソコンの扱いにも慣れている方が良いでしょう。屋外と屋内の業務の切り替えができることも大切です。
コミュニケーション能力が高い
土地家屋調査士というと黙々と業務を進めるイメージを持っている方もいるかもしれませんが、実はコミュニケーション能力が必要な仕事です。
測量の立ち合い時には顧客や隣人、役所の担当者など、関係者との信頼関係の構築が必要になります。また土地家屋調査士は補助者と2人以上のチームで仕事をするため、業務を円滑に進めるためにコミュニケーションを取らなければなりません。
さらに個人事業主や、将来的に独立開業を考えている方であれば、次の仕事につなげられるよう、顧客や関係者との人脈作りも大切です。
測量士・測量士補の資格を持っている
測量士・測量士補の資格を持っていた方が、仕事の幅が広がります。
土地家屋調査士と測量士・測量士補は似ているようで、業務の範囲が異なります。土地家屋調査士は登記のための測量を行いますが、測量士・測量士補は登記を目的としない土地の測量を行います。
それぞれ業務領域が異なるため、両方の資格を持っていると従事できる業務の幅が広がり、就職や独立開業後の業務を有利に進められるでしょう。
また測量士や測量士補、一級建築士、二級建築士の資格保有者は、土地家屋調査士試験の午前の部が免除になります。土地家屋調査士試験の受験を考えている方にとっては、資格取得への近道です(※)。
※参考:法務省「令和6年度土地家屋調査士試験受験案内書」
土地家屋調査士になる方法
土地家屋調査士になるには、以下の2つの方法があります。
1.法務省が行う国家試験に合格した後、土地家屋調査士に登録
2.法務局において実務を経験し、法務大臣の認定を受ける
多くの方は1の方法で土地家屋調査士になっており、本記事でも1のルートを目指す方法をお伝えします。土地家屋調査士の試験内容は、次章から詳しく解説するため、参考にしてください。
土地家屋調査士試験の概要
土地家屋調査士の資格は、法務省が管轄している国家資格です。以下、試験の概要を紹介します。
※参考:日本土地家屋調査士会連合会「土地家屋調査士を目指す方へ | 土地家屋調査士とは」
※参考:法務省「令和6年度土地家屋調査士試験受験案内書」
試験日程
土地家屋調査士の試験日程は例年、以下の日程で行われます。
・受験申請受付期間:7月下旬から8月中旬
・筆記試験:10月の第3日曜日
・口述試験:翌年1月中旬
・合格発表:(筆記)1月頃、(最終)2月頃
令和6年度の試験日程はこちらです。
・受付期間:2024年7月29日~8月9日
・筆記試験:同年10月20日
午前の部 着席時刻 9時
指定時刻 9時15分
試験時刻 9時30分~11時30分
午後の部 着席時刻 12時30分
指定時刻 12時45分
試験時刻 13時~15時30分
・筆記試験の結果発表:2025年1月8日16時
・口述試験:2025年1月23日
・最終合格者発表:2025年2月14日16時
筆記試験の内容
筆記試験は午前と午後に分けて実施されます。
試験時間 | 出題形式と配点 | 試験内容 | |
---|---|---|---|
午前の部 | 2時間 | 多肢択一式問題(10問、60点満点)と記述式問題(1 問、40点満点) | 平面測量10問 作図1問 |
午後の部 | 2時間30分 | 多肢択一式問題(20問、50点満点)と記述式問題(2問、50点満点) | 民法や不動産登記法から20問 土地・建物に関する出題各1問 |
前述の通り、測量士や測量士補、建築士(一級・二級)の資格を保有している方は、午前の部は免除されます。
なお筆記試験に合格すると口述試験に進み、約15分の面接を受ける必要があります。
受験地
試験は以下の都市の、法務局または地方法務局が指定した会場で行われます。
<筆記試験>
東京、大阪、名古屋、広島、福岡、那覇、仙台、札幌、高松
<口述試験>
東京、大阪、名古屋、広島、福岡、仙台、札幌、高松
土地家屋調査士に合格した後の流れ
試験に合格したからといって、すぐに土地家屋調査士として仕事に就けるわけではありません。ここからは合格発表後の流れについて解説します。
2~3月:合格証交付式
試験に合格すると、発表から約10日後に合格証が交付されます。受け取りは郵送ではなく、交付式で直接渡されます。先輩調査士や同期の合格者との交流ができる機会でもあり、積極的に話せば勉強やコネクション作りにつながるでしょう。
合格証の受け取りは原則として交付式への参加が必要ですが、申請により法務局での受け取りも可能です。
3月~:土地家屋調査士会に登録
土地家屋調査士として働くためには、日本土地家屋調査士会連合会の土地家屋調査士名簿に登録しなければなりません。
登録は各都道府県の土地家屋調査士会に必要書類を提出し、費用を支払って行います。千葉県土地家屋調査士会の場合は、以下の書類が必要です。
・入会届
・登録申請書(正1通、副2通)
・試験合格証
・履歴書
・写真
・住民票
・戸籍抄本
・身分証明書
・誓約書
・民間紛争解決手続代理認定証(認定者のみ)
・事務所の写真
また登録には以下の費用が必要です。
・入会金……50,000円
・共済基金……30,000円
・登録手数料……25,000円
・表札作製代……13,200円
・登録免許税……30,000円
※参考:千葉県土地家屋調査士会「入会案内」
秋~冬:新人研修
日本土地家屋調査士会連合会による新人研修が、毎年東京・大阪で実施されます。実施月日は年によって異なりますが、令和6年度の新人研修は、2024年9月に東京会場で、翌年2月に大阪会場で実施予定です。
研修の内容は講義とグループ研修ですが、事前に約12本のeラーニングを視聴しておくことが必須です。
また研修後に交流会が開かれることもあり、参加者同士だけではなく、土地家屋調査士会の役員とも交流できるかもしれません。
※参考:日本土地家屋調査士会連合会「令和 6 年度土地家屋調査士新人研修 実施要項」
土地家屋調査士の就職先
土地家屋調査会へ登録した後は、既存の土地家屋調査士の事務所などに就職したり、開業したりする道があります。就職先によって働き方も異なってくるため、よく吟味して決めてください。
土地家屋調査士事務所
土地家屋調査士の就職先には、土地家屋調査士事務所や登記測量事務所などと呼ばれる事務所があります。事務所には個人で開業しているものと、法人として運営されているものがあります。
個人事務所
個人事務所の場合、登録できる土地家屋調査士は一人のみで、業務の全てを一人の調査士が行います。そのためそれ以外のスタッフは補助者として働くことになります。試験に合格した後、一連の実務経験を積みたい場合は、補助者としての働き方も良いでしょう。
個人が運営しているため規模は小さく、経営的に不安定な面がありますが、携われる業務の幅が広いため、キャリアを積むのに適しています。また代表者の働き方を身近で学べるので、将来的に自分が独立開業するときに役立つ可能性があります。
法人事務所
法人の場合、個人とは異なり登録できる土地家屋調査士の人数に制限はありません。人数が多いため「測量部門」「登記部門」など分業になっていることが多く、個人事務所のように全般を学ぶことはなかなか難しいでしょう。ただし専門性を高められるメリットがあります。
企業としての規模が大きいため、個人事務所よりも給与や福利厚生の面がしっかりとしている傾向にあるのも魅力です。また多くの場合、研修制度をはじめ教育体制が整っており、実務経験がない状態でも学びながら業務に当たれるでしょう。
測量会社
土地家屋調査士事務所として登録している測量会社であれば、多くの場合、土地家屋調査士が所属して登記の業務も行っています。
個人事務所と比べると大規模な案件を手掛けることが多く、国や自治体の公共事業に関わることもできます。会社としても個人事務所に比べると安定し、給与や福利厚生も手厚いでしょう。
また測量会社以外に、土木建設会社などの建設業界や建設コンサルティングでも、土地家屋調査士の資格保有者を採用している場合があります。事務所以外の職場も探したい方は、就職先の選択肢として検討すると良いでしょう。
開業
一般的には土地家屋調査士事務所や測量会社で経験を積んでから独立開業しますが、未経験で独立するケースもゼロではありません。
開業した場合、自分のペースで働けるメリットがあります。しかし多くのクライアントを獲得し、安定するまでには時間がかかることは覚悟しておかなければなりません。また営業なども含め、ほぼ全ての業務を自分で行う必要があります。
中には業務内容で協力しやすい、税理士や司法書士、行政書士などと共同で事務を立ち上げる方もいます。自分自身の自由度は下がりますが、顧客にとってはさまざまな手続きを一貫して行えるメリットがあるため、事務所の強みになるでしょう。
まとめ
土地家屋調査士になるには国家試験に合格する必要がありますが、受験に関して年齢や学歴などの制限はなく、誰もが挑戦できます。資格を取得すれば事務所や測量会社など、就職先はさまざまある他、独立開業することも可能です。興味がある方は、まずは資格取得を目指してみてはいかがでしょうか。
ただし土地家屋調査士試験の合格率は決して高くなく、しっかりとした受験対策が必要です。東京法経学院では、土地家屋調査士の合格者を多く輩出しています。初学者向け、学習経験者向けの講座があり、学び方も通信・通学講座から選べます。自分の状況に合った学び方で合格を目指せるので、興味のある方はぜひお問い合わせください。
東京法経学院「土地家屋調査委試験 合格サイト」
https://www.thg.co.jp/tyosa/
コラムの運営会社
株式会社東京法経学院は10年以上にわたり、土地家屋調査士・測量士補・司法書士・行政書士など、法律系国家資格取得の受験指導を行ってきました。
通学・通信講座の提供だけではなく、受験対策用書籍の企画や販売、企業・団体の社員研修もサービス提供しています。
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